声優・ナレーターとして活躍したい。この業界を目指すだれもが思うことだと思います。
でも、マネージャーとしては「仕事とはなにか」という観点で考えている人がどれだけいるのだろうか、と常々考えてしまいます。

●仕事として成立することが大事

好きなことを仕事にする、それは間違っていませんし理想です。
でも、好きなように振舞うことが仕事として成立するかどうかは別問題です。
この違いをしっかり考えている人はどれほどいるのでしょうか。おそらくほとんどの方はこのことをあまり考えてきていません。

そもそも仕事とはどういうものなのでしょうか。

あなたの能力や好きなもの、作り上げたものや時間などを提供する。そしてそれらを必要とする側がいて、初めて取引は成立します。
つまり、売り手と買い手がいて、金銭などでのやりとりが発生することで仕事は成立します
一方がやりたいことをやって成立するものではありません。
ボランティアと仕事は違いますよね。
そのため、「好きなことを仕事にする」ということは、その「好きなこと」に価値がなければ成立しません。

●「価値」とはなにか

基本的に芸事の世界では、時間を費やしてなにかを突き詰めることに価値を置きます。
だから専門学校や養成所で学んできた新人がデビューした、ということがそれだけで「価値があるものとして」考えることが一般的になっています。そうでなければ、新人に仕事は回ってきません。なぜならば価値を証明しづらい無形のものを提供するからです。
だから売り手(事務所側・タレント)も買い手(クライアント企業や代理店・制作会社など)も新人タレントや実績のないタレントにも「価値がある」という認識で取引が行われます。

ではその価値があるということをどのように証明していくのか。

●実績は価値の尺度のひとつ

ひとつは実績。
どんな作品に出演しているか、どんな役をもらったか。どんな仕事をしてきているか、です。
現代ではSNSがありますので、そこでどれだけフォロワーがいるか。フォロワー数、それも指針になっています。
このSNSのフォロワー数を参考にするようになったことについては思うところもありますが、実際にそれが参考にされてしまっているのが現状なので、仕方がありません。
それ以外に方法がないのか、というとあります

●事務所との関係から価値をつくりだす

それが事務所との関係になります。

事務所との関係とはなにか。
事務所のスタッフとどれだけ意思の疎通ができているか、です。またどれだけ評価されているか。
そしてあなたがどんな仕事をやりたいのか、どんなことを考えているのか。
そのためにどんな努力をしているのか、どんなものやことに興味を持っているのかなどを事務所側が、マネージャーが把握しているかどうかが大事です。

事務所側としてはタレントを売ることで成り立つわけですから、タレントとの意思疎通に関わらず売ることが仕事となります。だから売る努力をします。

でも、考えてみてください。

あなたがイタリア料理店で接客バイトをしているとして、あるメニューの内容を聞かれたときにまったく知らなかったら自信を持って売れますか? さらにはおすすめできますか?

マネージャーは取引先との何気ない会話の中で、「場にいるだけで雰囲気が明るくなる子」「常に御朱印帳を持ち歩いていて、神社仏閣巡りの好きなタレントです」とか「最近ワークショップに通い始めて、課題意識と仕事に対する意識の高い子なんです」とかなどと営業トークをしたりします。
キャスティングの際には「〇〇のゲームが好きだからこの仕事に入れてあげたい」ということもあると思います。候補出しのときに「〇〇が好きなのでぜひやらせてあげたいです」なんてコメントを書かれて候補に出されたら、クライアントのゲーム会社としては、知らない人より知っているタレントに関わって欲しいと思うでしょうし、嬉しいかもしれません。

過去、クライアント企業でバイトしていたことがある。
そんな言葉で仕事が決まったこともあります。

もしあなたが事務所に所属している方であれば、事務所スタッフとのコミュニケーションをどうとるか、どれだけとれているか。それが大事になります。
それこそが、あなたの評価になり、やがては価値につながります。

●取引先のはじめは事務所スタッフ

あなたの取引先は、まず事務所のスタッフです。
事務所のマネージャー、デスク、経理、あなたに関わる全ての人があなたを売り込む人になりうるのです。現場のディレクターはマネージャーの先にいる人です。クライアントなんてさらにその先にいる人たちです。
「チャンスがあればしっかりやれる」なんて言葉はよく聞きますが、無理です。
だって目の前の味方であるべきマネージャーにすら信用されていない人が、取引先の相手にどうやって価値を証明できるというのでしょうか。

車の両輪のように共通の認識を持って、協力して前に進んでいけるのが理想の関係なのではないでしょうか。理想論かもしれませんが……。
マネージャーはタレントのやりたいことなどを理解して仕事をとってくる。
タレントは仕事で最大限のパフォーマンスを発揮して結果を残す。
お互い良い仕事をして、笑顔で美味しいごはんを食べる。
こんな関係がマネージャーとスタッフで出来上がると、どれだけ良いことでしょうか。

●フリータレントはどうするべきか

ではフリーで活動している人はどうしたら良いのでしょうか。

フリーで活動している人の強みは何かと言うと、すべて自分の責任のもとに仕事をすることができるということです。大変ではあるでしょうが、自分の責任で営業をかけることができるということは、ある意味では強みだと思います。
なぜなら誰よりも自分のことを語れるのは自分しかいませんから。

ただ、人は他人からの評価の方が信用しやすいんですね。
だから自分はどんなにすごいんだ、といくら言ってもなかなか信用されにくいのも事実です。

ではどうしたら良いのでしょうか。
あるコミュニティ新聞社は、取引先担当者に自社の評価を語ってもらったものを冊子として営業先に配っています。他者の評価というものは、本人の雄弁さを上回るものだということの証明ですね。

他に方法がないのか。
やりようはいくらでもあります。

●想いを伝えること

例えば、想いを伝えるようにすることです。
想いを伝えるとは、どんな仕事をしたいのか、どんな想いでいるのか、などです。自分は何が出来てどれほどすごいんだ、なんていうよりも気持ちを素直にぶつける方が人は受け止めやすいのです。だからその想いを形にしてみると良いのではないかなと思います。

プロフィール情報を経歴だけでなく、自分の想いや気持ちを表現するツールにしてみてはいかがでしょうか。趣味やはまっていることなんかも良いかもしれません。
それについては誰よりも深く語れる、なんてことがあればそれは強みです。
麻雀好きからプロになっている方もいますしね。

どのような方法もありですし、やってみてうまくいく方法を見つけていけば良いのです。
個人であれば、統計をとることも容易です。
目的としては、あなたの価値をどう高めるか。そして価値を提示すること、チャンスが回ってきたときにどのようにして証明するのか。それが大事だと思います。

自分の価値を高めるために、なにができるのか。
その視点でビジネスとして考えてみることをおすすめします。

●ビジネスとは価値同士の交換である

つまるところ、価値を感じる人が価値あるものを交換することでビジネスというものが成立しています
わかりやすい例でいえば、アルバイトですね。
アルバイトは、あなたに特定の業務をお願いしているように見えますが、実際はあなたの「時間」を「お金」と交換しているということになります。
アルバイト先企業は、あなたの労働力を時間単価として価値を見出し、お金を払っているわけです。
これが価値の交換です。
あなたはお金という価値あるものを得るために自分の時間を差し出していることになります。

知り合いにバンドマンがいました。
当時のバンドマンはファンの女性にみついでもらってヒモのような暮らしをしているのが大半だと思われていました。Aというバンドマンはまさにヒモ同然の暮らしをしながらバンド活動をしていました。
もう一人の知り合いは、そんな恥ずかしいことなんかしたくないということで、当時としては破格の深夜バイトで時給1000円で働いていました。彼をBとします。

1年経って、二人がどうなったか。
Aは売れました。バンドで名前が知られるようになりメジャーデビューです。
Bはどうなったかというと、アルバイトを続けているままでした。
やり方はともかく、Aは自分の時間を最大限活かすための行動をし、Bは自分の時間を切り売りすることでプライドは保てましたが、自分のやりたいことのために、本当の意味で前に進めていたのでしょうか。

どちらがいいとか悪いとか、を言いたいのではありません。
自分の時間を最大限投資することが、どれだけ大事なことかを考えてほしいのです。

Aは自分の時間を、自分のやりたいことのために使う方法を選んだ。
Bは自分の時間を、生活のためにお金と交換する方法を選んだ。

客観的に見た場合には、それだけのことでしかありません。
そしてSNSは、あなたの時間を奪うことで利益を得ている仕組みです。

だからインフルエンサーにはお金が支払われるわけですよね。
Youtubeでもそうです。登録者が多く、視聴回数に応じてお金が支払われる。
つまりあなたの時間が、見えない部分で誰かの価値として使われているわけです。

あなたは自分の時間を使って、知らない知識や疑似体験・経験を価値とし、運営元はあなたの時間を別のところでお金と交換している。

だからビジネスとは価値と価値の交換と言えます。

●「価値」とは「相対的」である

少し話がそれてきたので、戻しましょう。
あなたは日本語という誰もが扱える言語を使うことで、お金という価値を得るビジネスを目指しています。ということは、あなたの喋る日本語に価値がなければ成立しないという考え方もできます。

それでは、どんな形であなたはあなたに価値を認めてもらわなければならないのか。

きれいな声ですか?
聴きやすい音ですか?
淀みなく喋る技術ですか?
あなたと仕事をする体験ですか?
あなたが醸し出す雰囲気でしょうか?
あなたの言葉で与える感情ですか?

いろいろな考え方があります。
なぜなら、価値とは相対的なものだからです。

つまり、あなたの声に価値があると思う人はあなたにお金を払う意味を見出します。
あなたの名前、実績に価値を見出す人もいるでしょう。
あなたの容姿に価値を見出し、それをお金に変える人もいます。
あなたの人間性、考え方やアイデアに価値を見出す人もいます。

あなたが普段、なにげなく興味を持って、お金を使うことすべてにあなたは意識的・無意識的になんらかの価値を感じているから、そのなにかにお金を使っているわけです。

あなたが声の仕事をしたいのであれば、自らの価値をどのように伝えられるのか。
それが容姿でも、年齢でも、声質でも、想いでもなんでもかまいません。
ただビジネスとは価値と価値の交換で成立しているということを意識することで、あなたのこれからの時間の使い方が変わると思います。
時間の使い方が変われば、あなたの行動が変わります。行動が変われば習慣も変わるし、習慣が変われば結果が変わります。

ちょっと難しいお話をしましたが、価値というものについて少し考えてみることをおすすめします。

その価値を高めるために、日々の努力を積み重ねること。
そんな考え方をしてみたら、基礎練習はつまらないからやりたくないなんて言えなくなるかもしれません。その基礎の上にあなたの価値が築かれるわけですから。

長々書いてきましたが、頑張れってことですね(笑)。

最後までお読みいただきありがとうございました。